非上場株式等の相続税の納税猶予

前回は相続時精算課税に係る土地建物の価額の災害発生時の特例について説明しました。

 

今回は改正項目ではないのですが、某芸能事務所の役員留任問題で話題となっている

非上場株式等の相続税の納税猶予についてご説明します。

 

まずは制度の概要から確認していきましょう!

【概要】

非上場株式等の相続税の納税猶予は中小企業の事業承継を支援する目的で

事業を承継する事を要件として、非上場株式に係る相続税を猶予し、

一定の要件を満たした場合に相続税を免除する制度です。

 

それでは制度を受けるにあたって、どのような要件が必要となるのでしょうか?

非上場株式の相続税の納税猶予の適用要件と一連の流れについて説明します。

 

【適用要件】

●被相続人の要件

相続開始直前に以下の要件を満たしていること

・会社の代表権を有している

・相続開始直前において被相続人の株主グループが会社議決権の50%超を保有していた

・会社の筆頭株主である

●後継者である相続人の要件

・相続開始日の翌日から5ヵ月以内に会社の代表権を有している

・相続開始時に後継者である相続人の株主グループが会社議決権の50%超を保有している

●対象会社の要件

次のいずれにも該当しない会社であること

・上場会社

・中小企業者に該当しない会社(注)

・風俗営業会社

・資産管理会社

(注)中小企業者に該当しない会社

次のいずれかの法人が該当します。

・資本金の額が1億円超の法人

・大法人(資本金の額が5億円以上である法人)との間にその大法人による完全支配関係がある法人

 

【非上場株式等の相続税の納税猶予制度の一連の流れ】

・相続開始日前:特例承継計画を会社所在地の都道府県知事に提出

・相続開始日から8ヵ月以内:同上県知事に円滑化法認定の申請

 →円滑化法認定の通知:認定書又は認定しない旨の通知書が届く

・相続開始日から10ヵ月以内:相続税申告書の提出

 →認定書を添付して被相続人の住所地の税務署長に提出

・申告期限から5年間:年次報告書の提出

 →毎年、会社所在地の都道府県知事に提出

・申告期限から5年間:継続届出書の提出

 →毎年相続人の住所地の税務署長に提出

・申告期限から5年経過後:3年ごとに継続届出書の提出

 →相続人の住所地の税務署長に提出

・相続人の死亡ほか一定の免除事由が発生した場合:免除届出書又は免除申請書の提出

 →届出書は6ヵ月以内、申請書は2ヵ月以内に相続人の住所地の税務署長に提出

 

まとめると、中小企業である会社の代表権を有していた被相続人から事業を承継した相続人は、

相続税の申告期限から5年間、代表権と株式の保有を継続することを要件に非上場株式に係る相続税が猶予されます。

その後5年間は株式の保有を継続することと3年ごとの継続届出書の提出を要件に納税が猶予されます。

最終的には、原則後継者である相続人の死亡日に猶予分されていた相続税が免除されます。

 

今回、某事務所の件で問題となったのは、会社内の人事を変更したい状況にあっても

後継者であった代表が現職を留任した点にあります。

なぜなら、納税猶予は前任の代表者死亡時から最低でも5年間は代表職を継続しないと

今まで猶予されてきた相続税を支払わなければならなくなるためです。

 

このように納税猶予制度は大きな優遇制度でメリットが大きい半面、事業継続の要件が

満たされなくなると、猶予されていた相続税を利子税と共に支払わなければならない

デメリットも有しています。

制度の導入をお考えの場合には、一旦導入すると簡単には止められない制度のため、

事業承継が継続出来るのかについて慎重に検討することをお勧めします!

 

2023年10月12日